未製本 笛吹き果無の冒険

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2006 / 03 / 20  Mon
   
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笛吹き果無は旅人です
地球を三回ほどまわった彼方にある笛吹き果無の故郷には
思い出せば気が遠くなるほど帰っておらず
記憶の底に在る 鮮やかな故郷の花の匂いも 思い出せません
懐かしいという言葉も 最初っから ありませんでした
これから生まれることも 勿論のこと

笛を片手でくるくる回しながら色んな場所を旅してきました
故郷と見紛うばかりに美しい 風と共にあるところがあって
失せ物を見つけた時のような嬉しさを含んだところもあって
いつも幸福な匂いに包まれた場所ばかりでした
雪が太陽を反射して 光そのものの姿に見えたり
晴れそのものの空間から 雨が染み出してきたり
森にある カサカサと音の鳴る 絨毯を歩いたり
隣の家の 屋根裏部屋から ピアノが聞こえたり
丘の上で 更なる高みへ 愛を歌う人々が居たり
草原の上にある 白い雲が 椅子の形に見えたり
あとは


「旅人さん。君はどうして旅をしているんだい
 君は出会った先から
 色んなものを捨てているような
 ものじゃないか
 どうしてそんなことをしているんだい
 君には大事なものはないのかい」
「そんなことはないさ
 僕にも大事なものはあるさ」
「それはなんだい」
「何というより誰さ
 僕と同郷の
 琴弾き宛無さ」
「その人はどうしているんだい
 まさか故郷に捨ててきたのかい」
「いいや
 彼女は故郷に居ない」
「ならどこにいるんだい」
「知らない。琴弾き宛無は
 僕より先に
 故郷から居なくなってしまったから」
「じゃあ旅人さんはその人を探しているんだね」
「いいや。旅に出ようと決めたのは
 彼女が居なくなる前からなんだ」


笛吹き果無は
様々な幸福の風景の最後に
一つの故郷の光景を思い出しました

ためらいがちに琴を爪弾く
ことひきあてな
壁を挟んで琴にあわせようと
笛に口をつけた 自分

笛吹き果無は
月を仰ぎながら
何故だか 涙しました
自分で自分のことが
よく わからなく なりました
悲しくなかったことが
悲しいと思っている自分がいたことに
今 ようやっと 気が付きました
持っていたはずのものを
いつの間にか
持っていないことに 気がつきました
琴弾き宛無に貰った いつも笛を入れていた 小さな袋、
琴弾き宛無にあげた 海の音が聞こえる 小さな貝殻、
そいで
琴弾き宛無が作った 名前も知らない
二つの綺麗な 押し花の 栞
それらは もう
心の何処にも 住み着いては いませんでした

笛吹き果無は
笛を口につけました
最後の日から
もう ずいぶんと 経っていました

笛吹き果無は
懐かしい
一つの曲を 吹きました
月まで届けばいいと願って
旅を始めてから
はじめて
笛を吹き出しました
琴の音が何処からか
聞こえてくれば良い
そう
願いながら
昔々の自分を手探りに

だけど
聞こえてこなくても 構わない
笛吹き果無は そうも 思いました
叶わないことなんて とうに知っていて
でも 願うくらいは
それくらいは 都合の良い考えをするくらいは
誰にだって

笛吹き果無は
笛に与える吐息に 言葉を混ぜました
ただ
琴弾き宛無を思い出したよ
そう
笛に 放ちました

願いすらも忘れて
笛吹き果無は曲を
広がし続けました
自分というものも
見失っているのに
笛吹き果無の頬を
涙は
伝わり続けました

やがて夜が明けました
笛吹き果無は笛を拭って旅立ちました
向かうところはいつもと同じで根無し草
例え寄り辺を見つけようとも変わりません
相も変わらず失敗しては笑ってごまかして なんとなく野良仕事を手伝って
とても綺麗なものを見てはため息をつき 誰かのことを心の底から好きになり
それから 幸福の影から逃げるように
誰からも呼び止められないように 旅立ちます
一人で居ることが 大好きだったから
自分に訪れる幸福なんか 大嫌いだったから
そこは 昔と 故郷に居た頃と 全く 変わらないままでした
変わったところといえば 気が向いたときには笛を吹くようになったことと
昔よりも笛を吹くのがヘタになっていた
それくらいでしょうか

笛吹き果無は今日も旅をしています
何かを探す訳でも無く
ただ 笛を吹きながら
此処にはいない琴弾き宛無のことを
時々懐かしく思い出しながら
寂しさに 欠伸するまで
えっちらおっちらぶらぶらと
まあ、一人ぼっちで適当に
歩き続けて行きましたとさ


めでたしめでたし
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